伊坂幸太郎「AX(アックス)」のあらすじと感想。ミステリとギャグと感動がギュッと詰まったお買い得小説だった。

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こんにちは、Shin(@Speedque01)です。伊坂幸太郎氏の小説「AX(アックス)」を読了しました。

「AX」は、今をときめく人気小説家である伊坂幸太郎氏のミステリ小説です。

アマゾンでの内容紹介は下記になります。

【『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる、伊坂幸太郎史上最強のエンタメ小説<殺し屋シリーズ>!】

最強の殺し屋は――恐妻家。物騒な奴がまた現れた! 新たなエンタメの可能性を切り開く、娯楽小説の最高峰!

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。 一人息子の克巳もあきれるほどだ。 兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。

引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。

こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。 書き下ろし2篇を加えた計5篇。シリーズ初の連作集!

殺し屋 x 恐妻家という謎の組み合わせ。なんとも面白そうです・・・!

まずは著者の伊坂氏について調べてみましょう。

著者:伊坂幸太郎氏とは

伊坂幸太郎氏は1971年生まれの作家です。もともとはシステムエンジニアとして働いていたのですが、その後専業作家となったとのことです。

千葉県松戸市出身。千葉県立小金高等学校、東北大学法学部に入学。この時期の東北大学には、薬学研究科に瀬名秀明、文学研究科に佐藤賢一、理学部に松崎有理と円城塔など、後に小説家として著名になる人物が在学していた。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。その後作家専業となる。宮城県仙台市在住。

2002年の『ラッシュライフ』で評論家に注目され始め、直木賞候補になった2003年の『重力ピエロ』で一般読者に広く認知されるようになった。それに続く『アヒルと鴨のコインロッカー』が第25回吉川英治文学新人賞を受賞した。

2003年『重力ピエロ』、2004年『チルドレン』『グラスホッパー』、2005年『死神の精度』、2006年『砂漠』で直木賞候補となる。また本屋大賞において唯一第1回から第4回まですべてにノミネートされ、2008年の第5回に『ゴールデンスランバー』で同賞を受賞した。同作品で第21回山本周五郎賞も受賞した。なお同作で直木賞の選考対象となることを「執筆に専念する」ことを理由に辞退している。(出典:伊坂幸太郎 – Wikipedia

あまり小説を読まない人でも聞いたことがある作品が多いのではないでしょうか。押しも押されもせぬ人気作家ですね。

下記の記事で、本作「AX」の誕生秘話が語られています。

kadobun.jp

──『AX』は累計二二〇万部突破の〈殺し屋シリーズ〉、およそ七年ぶりとなる新作です。主人公は、シリーズ初登場となる殺し屋の「兜」。彼は殺し屋でありながら恐妻家でもある、という点が読みどころですね。この設定を着想した経緯を教えていただけますか。

伊坂:きっかけは今、僕に質問してくれている三宅さんとの雑談です(笑)。「AX」(第一編)の冒頭で、兜が檸檬と蜜柑(シリーズ前作『マリアビートル』に登場した殺し屋コンビ)を相手に「恐妻家は夜食で何を食べるか?」という話をしますよね。カップラーメンは包装しているビニールを破るところから食べるところまで意外と音がうるさいから、寝ている妻に怒られる。「最後に行き着くのは、魚肉ソーセージだ」と。あのエピソードって、三宅さんから聞いた話ですからね。「究極的には、魚肉ソーセージなんですよ!」って言われて、可笑しくて。あっ、実体験ではなく、想像ですか?

──もちろんです。実体験のはずがありません。

伊坂:実体験としか思えない迫力で語ってくれたそのエピソードに、ものすごく感動したんですよね。その場で盛り上がって、僕が「恐妻家の殺し屋がいたら面白いですよね」とノリで喋ったら、本当に書くことになっちゃった。

──まずは短編を一本ということで、若い編集者が正式に依頼しました。伊坂さんから「もっとエピソードが欲しい」というリクエストがあり、僕のほうで恐妻絡みのエピソードをメモにしてお送りしました。

伊坂:「三宅メモ」と呼んでいました(笑)。当時は震災のすぐ後だったし、楽しいものしか書きたくないなと思っていたからちょうど良かったんですよね。単に殺し屋の話だとキツいけど、魚肉ソーセージの話は楽しいし誰も傷つけないじゃないですか。あと、三宅メモがすごくいいなと思ったのは、「私は妻に怒られないよう家ではこういう言動をしています」といったことが告白調の文体で書かれてあるんですけど、読んでいると「奥さんの悪口を言いたいわけじゃない」ってことが分かるんですよね。自虐的ではあるけれども、いい話なんですよ。

なんとKADOKAWAの編集長との雑談から着想を得て書き上げたとのこと・・・。さすがというかなんというかという感じですが、やはり一流の作家ともなるとすべてがネタにつながるということでしょうか。

では、中身の紹介をしていきます!

あらすじ

本作の主人公であり、語り部である「兜(かぶと)」は、超一流の殺し屋です。「医者」から依頼を受けて、黙々と任務を遂行しています。

しかしながら、兜はもう殺し屋という稼業には嫌気が差しているようで、医者にちょいちょい「辞めたい」と訴えます。しかし、その言葉が聞き入られることはありません。

「俺はもう、悪性の手術はやめると言ったじゃないか。悪性相手の手術で死ぬ、なんてこともありえる」

「そんな年ではないでしょうに」

無表情の医師は肌の艶が良く、皺も少なく、年齢不詳だ。ただ、兜が二十代の頃から、仕事の仲介をし、その時もすでに似たような風貌であったことを考えると、かなりの高齢の可能性もある。丁寧な言葉遣いながら、当時から業界内に精通する貫禄を浮かべていた。

「いや、もう無茶はできない」兜は答える。

「どんな手術も、冷静に手際良く、あなたのように対応できる人は多くありません」

医師はお世辞を言わない。カーナビが、「大丈夫ですよ。少し道に迷っていますが、かなり指示通りに運転できていますよ」とお世辞を言わぬのと同じだ。だから、その評価も噓ではない。

「できるだけ早く、業界から抜け出したいんだ」

「退院するには、お金が必要です」

この男は本当に俺を業界から引退させるつもりがあるのだろうか。兜は考えてしまう。

そんな一流の殺し屋である兜ですが、表の顔は文房具メーカーの営業担当。そして、かなりレベルの高い恐妻家です。

兜と彼の奥さんのやり取りは、なんとなくリアルでありつつ、「いやいやさすがに考えすぎでしょ!」とついつい突っ込んでしまうものになっています。兜の息子の克己が妙に冷静なのもまた可笑しさがあります。

「夕食、トンカツじゃなくてもう少しあっさりしたのでもいいかな。そうめんとか」

兜の胃袋はすでに、トンカツを食べる気持ち満々の、トンカツの形状になっているほどの感覚ではあった。さらに妻の言葉は、「いいかな?」という相談の形式を取っている。

普通の人間であれば、「やはりトンカツが食べたい」と自らの希望を主張することを考えるかもしれない。が、それはアマチュアだ。長年の付き合いから兜はどう答えるべきかを知っており、悩むことなくそれを口にした。

「俺も、そうめんくらいのほうがいいように思っていたところなんだ」  

克巳がにやにやしながら、単語帳をめくる。「いたわしい。可哀相。poor」

兜は恐妻家ではあるのですが、家族のことを心から愛しています。特に奥さんに対しては、愛しているからこそ彼女のことを考えに考え、なんとか日々気持ちよくすごしてもらおうという気遣いが感じられます。

息子である克己から「なんでそこまでするのさ」と問われる場面も多々ありますが、兜には独自のポリシーがあり、それを貫いているのです。

上記のようなほのぼの家族コメディと同時に、兜は医者からの依頼を淡々とこなしていきます。たまに友人が出来て奥さんの愚痴をいいあったり、互いに尊敬しあう殺し屋友人ができたりと、充実した(?)日々を送っています。

しかし、とある出来事をきっかけに兜は「もう殺し屋を辞める」と医者に宣言します。その結果、兜の身に起こったこととは・・・。

ミステリ・ギャグ・感動の三本立てのお買い得小説。

「AX(アックス)」は、正直ミステリ小説としてはそこまでのクオリティではないというのが正直なところです。謎らしき謎はクライマックスぐらいで、他は淡々とアクションが進んでいくため「次にどうなるのだろう?」というドキドキ感はそこまで感じられないです。

しかし、AXの魅力はミステリだけではありません。日々日々行われる兜の会話が非常にシュールかつリアルでメチャクチャ面白いです。つい声を出して笑ってしまったり、「あるある!」と頷くところも少なくありませんでした。

兜と奥さんの会話に突っ込む息子克己のクールさ、兜とボルダリング友人である恐妻家松田の話の合いっぷり、いろいろと面白くて和みます。

そして、兜が「恐妻家」でありつつも、実は「真の愛妻家」であるところもまたいいのです。特に最後のシーン、兜と奥さんの出会いのシーンですが、これがジーンときます。兜に起こった出来事や、奥さんとの今までの恐妻家会話がすべて最後のシーンに集約され、「兜は幸せだったんだな・・・」ということが痛いほど伝わってきます。

ミステリ単体としてはそこまででもないですが、総合的にみてとてもおすすめできる小説でした。未読の方はぜひどうぞ。

 

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