黒木亮「トップ・レフト」のあらすじと感想。投資銀行の恐ろしさをまざまざと実感した。

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こんにちは、Shin(@Speedque01)です。黒木亮氏の小説「トップ・レフト」を読了しました。

「トップ・レフト」は、ビジネスの現場を題材にした経済小説を多く書いている黒木亮氏のデビュー作です。

アマゾンでの内容紹介は下記になります。

国際経済小説の大型新人として注目を浴び、「喉の渇きを覚えながら、一気に読了した」と高杉良氏に激賞された衝撃のデビュー作。

日系自動車メーカーのイラン工場建設のため、1億5000万ドルの巨大融資案件がもちあがった。大手邦銀ロンドン支店次長・今西は、国際強調融資の主幹事(トップ・レフト)を獲得すべく交渉を開始するが、かつての同僚で日本を捨て、米系投資銀行に身を投じた龍花が立ちはだかる。そこに世界を揺るがす敵対的買収(TOB)が…。栄光のトップ・レフトの座を射止めるのは誰か!?

メチャクチャ面白かったです。「さすがにフィクションでは・・・?」と思うような展開もあった一方で、「確かにこういうことあるある!」と頷いてしまうようなリアルな場面もたくさんです。「読んでいると仕事のことをありありと思い出してしまうからイヤだ」という声があがるほどのリアルさが、黒木氏の真骨頂ですね。

著者:黒木亮氏とは

黒木氏は1957年生まれの作家です。もともとは三和銀行(現在の東京三菱UFJ銀行)に入行してプロジェクトファイナンスに従事、その後証券会社や商社にも勤め、その経験をもとに多数の経済小説を書かれています。

北海道深川西高等学校、早稲田大学法学部卒業後、三和銀行に入行。同行の海外派遣制度でカイロ・アメリカン大学に留学し、修士号(中東研究科)を取得。同行ロンドン支店国際金融課でトルコ・中東・アフリカ向けの国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。

その後、ロンドンの証券会社を経て、三菱商事ロンドン現地法人に入社。同社でプロジェクト金融部長を務めながら2000年10月に上梓した国際金融小説『トップ・レフト』で小説家として一躍脚光を浴びる。その後、2003年7月に同社を退社し、専業作家になった。本名の金山雅之(かなやま まさゆき)名義で『ロンドン国際金融の仕掛人』、『国際銀行マンロンドン発』などの書籍も執筆している。

産経新聞紙上で連載された『法服の王国』は、概ね青年法律家協会メンバーや反原発の人々を主人公として戦後司法史を描いた小説が保守系の新聞において掲載されたことから、話題を呼んだ。

早稲田大在学中は競走部に所属し、大学4年時にはロード20kmで1時間1分58秒8の北海道新記録を出している。また箱根駅伝には2年連続で出場し、第55回大会(1979年)では、3区のランナーとして、2区の瀬古利彦からトップで襷を受け取り、首位のまま4区へ繋いでいる。競走部時代の瀬古利彦や中村清のエピソード、および自らの陸上競技人生に関しては、『冬の喝采』に詳しく書かれている。これは自伝的小説という位置づけではあるが、ほぼノンフィクションである。(出典:黒木亮 – Wikipedia

黒木氏はビジネスの現場での豊富な実体験があり、それゆえに経済小説の迫力が段違いなのです。交渉の息遣いや緊迫感がありありと伝わってきます。

では、中身の紹介をしていきます!

あらすじと登場人物

本作の主人公は二人います。

一人目は、アメリカの有力投資銀行「モルガン・ドレクスラー」のローン・シンジケーション部のリード、龍花丈です。生き馬の目を抜くような投資銀行の中でも特にバイタリティとリーダーシップがあり、新入社員の憧れの的でもあります。

「あれが龍花さんだ」

この四月に東京支店で採用された十人ほどの新入社員が見学に着ており、

龍花は一八〇センチの長身、細面に長めの頭髪、油断のない二つの目。世界で最も洗練され、最も競争が激しい欧州の金融ビジネスを勝ち抜いてきた荒鷲に、研修生たちは遠くから畏敬の視線を送る。

龍花はローン・シンジケーション部の中央に背筋をすっくと伸ばして立った。

「ローンチの準備だ!」

龍花の声が響き渡り、四十人のスタッフの間に緊張が走った。

国際協調融資の組成開始を「ローンチ(進水)」と呼ぶ。 中近東の大産油国向け二十億ドル(約二千六百億円)の大型融資が、今まさに国際金融市場という大海へローンチされようとしている。欧米の有力金融機関が入り乱れての激烈な主幹事争いの末、強大な引受け力を有し、金融技術の粋を凝らしたファイナンス案を提示したモルガン・ドレクスラーが並みいるライバルを蹴散らしてトップ・レフトの座を獲得した。

融資案件が行われると、そのボロワー(借入人)の名前、融資総額、主幹事銀行名、引受銀行名、一般銀行名を記した紙を埋め込んだアクリル樹脂版が作成される慣習があります。その一番上の左側(トップ・レフト)には、その案件をリードした主幹事銀行の名前が記されるのです。

もう一人の主人公は、富国銀行ロンドン支店国際金融担当次長、今西哲夫です。八十年代には「ジャパン・マネー」が世界を席巻しており、ロンドン支店にも多くのスタッフがいました。しかし、最近はどんどんリストラが進み、部下も少なくなってしまっています。

二、三年前から銀行間市場での資金調達に五〇から八〇ベーシス・ポイント(〇・五~〇・八パーセント)もの邦銀向け上乗せ金利を課されるため、参加できる融資案件も極端に減った。欧州の一流企業はジャパン・プレミアム以下の利鞘しか払ってくれないので逆鞘になる。やれるのは、利鞘が一パーセントを超えるトルコ、中近東、アフリカ向けの案件だけだ。

「邦銀さんとやれる仕事はないですなあ」

英国の地場企業のみならず、日系企業にも冷ややかな言葉を浴びせられる毎日で、肩身が狭い。

先日も、日系の大手輸出メーカーの英国法人の財務部長に「邦銀さんにお話をしても、何もできませんからねえ」と、蔑むようにいわれた。

ある意味対照的ともいえる二人。この二人がとある案件を軸に、さまざまなディールを進めていきます。

「儲け」のためにすべてを賭けてディールに邁進する龍花と、どんな困難に陥っても誠心誠意仕事を続ける今西。二人の価値観の違いが多くのビジネスパーソンやディールを巻き込み、大きなうねりとなっていきます。

投資銀行マンたちの誇りを賭けた熱いディスカッションの中で放たれた「マイワード・イズ・マイボンド」というプロフェッショナリズムや、ベネディッティ・モンディーノ・アンド・ヤヌス銀行によるモルガン・ドレクスラーへの敵対的買収の裏側など、見所はたっぷりです。

そして、最後に明らかになる「最強の投資銀行」とは、龍花のモルガン・ドレクスラーなのか、今西の富国銀行なのか、それとも・・・。

恐ろしくもエキサイティングな投資銀行

全編を通してとてもエキサイティングな素晴らしい小説でした。金融の専門知識がなくても楽しめますし、投資銀行の業務について理解を深めたい方にももってこいの小説です。

一番心を打たれたのは、やはり「マイワード・イズ・マイボンド」の箇所です。

「マイワード・イズ・マイボンドという言葉を覚えておられますか?」

その瞬間、全員がはっと身体を硬直させた。

ロンドンの金融街シティで国際金融の世界に足を踏み入れることを許された者の誰もが最初に聞く言葉だ。

マイワード・イズ・マイボンド(my word is my bond、私の言葉が私の保証)。一度口に出した約束は命を懸けても果たす。

口約束だけでディールがどんどん進行して行く国際金融ビジネスのプロフェッショナリズムを表す言葉だ。シティの中枢であるロンドン証券取引所の紋章には、この言葉が「DICTUM MEUM PACTUM」というラテン語で刻み込まれている。

「確かに、ロシアの汚染はトルコにまで及ぶかもしれません。そして融資した金が焦げ付くかもしれません。しかし、ブリティッシュ・チャータード銀行はこの融資から撤退する気は一切ありません!」ハーランドは決然といい切った。

「我々が今直面している最大の問題は、単にシンジケーションが上手く行くかとか、融資が焦げ付くとかいうことではありません。我々が今守らなければならないもの」ハーランドは問いかけるように間を置いた。「……それは、レピュテーション(名声)です」

メチャクチャかっこいいですよね。

コンサルティングの世界でも、プロフェッショナルとしての掟を新卒のときから叩き込まれます。

★参考記事

下記の5つがここで書かれている「鉄の掟」ですね。

  1. クライアント インタレスト ファースト(顧客利益第一) – 全てはクライアントのために
  2. アウトプット オリエンティド(成果指向) – 結果がすべて
  3. クオリティ コンシャス(品質追求) – 本気で最高を目指す
  4. ヴァリュー ベース(価値主義) – コストは問わない
  5. センス オブ オーナーシップ(全権意識) – 全て決め、全てやり、全て負う

「そういうあなたは全部守れているのですか?」と面と向かって聞かれたら、ぼくは残念ながら無言になってしまいます。「当たり前じゃないですか。」と答えられるにはまだまだかかりそうですが、本当のプロフェッショナルになるべく日々忘れずにいたい5か条ですね。

しかしながら、ここがクライマックスではないのがこの小説「トップ・レフト」のすごいところです。
トルコ・トミタ自動車を陥れ、トルコ金融市場を恐慌に叩き込もうとした龍花と、”最強の投資銀行”との戦いは、息つく暇もない迫力です。

十一時三十分、スクリーンを見詰めていた龍花は(おや?)と思う。  トルコ・トミタ自動車の株価の数字が上昇を示す赤色に一瞬変わったのだ。

(何だ?これだけ売ってるのに下げ止まるのか? 冗談だろう)

数字はすぐに黒に変わる。

(そうだ、その調子だ)

しかし、一瞬後また赤に変わった。

(何だ? いったいどうしたんだ?)

今度はしばらく赤のままだ。

株価はじりじりと上昇し始める。七、〇〇〇リラの水準を回復し、八、〇〇〇リラへと迫って行く。 「おい。何かおかしいぞ」龍花は傍らのトレーダーに話しかける。

「そうですね。下がるはずなんですが」 「試しにもう三億株売ってみろ」  トレーダーはマイクで売り注文を出す。しかし、トルコ・トミタ自動車の株価は赤のままだ。 「おい! どうなってるんだ!」龍花は怒鳴った。「誰が買ってるんだ!?」

龍花と”最強の投資銀行”の戦いの結末は、ぜひ「トップ・レフト」を購入して確かめてみることをおすすめします。