芥川賞「影裏」感想とあらすじ。不思議な余韻を残す作品だった。

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こんにちは、Shin(@Speedque01)です。2017年上期の芥川賞「影裏」を読了しました。

「影裏」は、本作がデビュー作となる沼田真佑氏の小説です。また、この作品は第157回芥川賞だけでなく、第122回文学界新人賞も受賞しています。

アマゾンでの内容紹介は下記になります。

第157回芥川賞受賞作。

大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。

北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、 ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。

ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、「あの日」以後、触れることになるのだが……。

樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。 第122回文學界新人賞受賞作にして、第157回芥川龍之介賞受賞作。

なんとも幻想的な紹介文です。まずは著者の沼田氏について調べてみましょう。

著者:沼田真佑氏とは

沼田真佑氏は1978年生まれの作家です。塾講師を生業としており、本作がデビュー作となります。

下記、沼田真佑氏の経歴となります。

北海道小樽市出身。岩手県盛岡市在住。西南学院大学商学部卒業。塾講師。

2017年、「影裏」で第122回文學界新人賞受賞。同作で第157回芥川龍之介賞受賞。

ほとんど情報がないのですが、文春オンラインで人柄やキャラクターがわかる記事を発見しました。

bunshun.jp

ひょっとして、受賞に対して何か思うところがある? 翌日、話を聞く機会を得て訊ねると、

「いえ、まさかそんなことはありません。会見で『今の気持ちを』と問われてひとこと『光栄です』とお答えしたのが、本心です。うれしいですし、虚栄心も大いにくすぐられています。ただ、みなさんに迎え入れていただいている状況というのが、どうにも落ち着かないといいますか……。子どものころから、どちらかといえばアウェイに強い性質なんです。全員に嫌われているような立場のほうが、破れかぶれになって楽にふるまえる。これだけ温かくしていただくと、かえって生殺しに遭っているようで」

それに、と浮かない表情の理由を、もうひとつ挙げてくれた。

「受賞するなんて本当に予想外で、今もまだひたすら戸惑っているというのが本当のところです。自分ではSNSをしないんですが、そういうのに詳しい人から選考前に聞いたところでは、下馬評は低そうだとのことでした。それに自分の候補作を考えても、受賞するにはちょっと短かすぎるんじゃないか、文章が思わせぶりに過ぎるんじゃないか、そもそも芥川賞にはあまり合わないタイプの小説じゃないか……。いくらでも『受賞できない理由』は思いついたので、そんなものが受賞することはないだろうと信じ切っていました」

沼田さんは岩手県在住なので、発表の日に合わせて上京していたが、受賞はないと踏んで、翌日は家族とうなぎを食べに行ったりと目いっぱい予定を入れていたくらいである。

荷物の中には、人前に出るような晴れ着の用意もなかった。

「普段着しか持ってきていなくて、会見のときに羽織っていたのも、風呂上がりに汗が引いたあとで着るようなシャツです。ホテルでアイロンを借りて、シワを伸ばしている程度です」

さらにもうひとつ。小説家としては引け目も感じていたという。

「『影裏』はデビュー作です。まだひとつしか小説を出していないのに、こんな賞をいただいていいのかという気持ちも強い。この先も書き続けられるのか? という疑問が選考の場で出たと聞いていますが、そう言われるのも当然だと思いますし、自分でもそこは不安に感じたりします」

小説家らしいといいますか、等身大で繊細な印象を受けるインタビューですね。「これなら絶対受賞できる!」という自信からは程遠い、少し自信なさげな印象を受けました。ゆえに好感が持てる、という感じもします。

では、中身の紹介をしていきます!

あらすじ

本作の主人公であり、語り部である「今野秋一」は、趣味が川釣りのサラリーマンです。岩手県で働きつつ、休日は酒を飲みながら釣りを楽しむ、平凡ながら幸せな日常を送っています。

今野は職場でひとりの男性と友人になりました。彼の名前は「日浅典博」。なぜかウマが合った二人は、よく一緒に酒を飲みながら釣りをしています。酒の飲める量も同程度で、良い友人となりました。

しかし、ある日唐突に日浅は会社を辞め、「株式会社アイシン」という冠婚葬祭業を営む少々怪しい会社に転職します。この会社はコミッション制のようで、今野にも入会を勧めます。

今野は唐突に「副嶋和哉」からのメールを受け取りました。副嶋は今野のかつての恋人で、現在は性転換手術を受けて女性として暮らしているようです。

そうして日々をすごしている際に3.11の東北大震災が起こり、今野は日浅と連絡が取れなくなります。今野はなんとか日浅を探そうと八方手を尽くすのですが・・・。

純文学特有の不思議な余韻を残す作品。

影裏は、謎解きを楽しんだり感動に涙するような作品ではありません。話の筋がしっかりと決まっているというよりも、淡々と語られる今野や日浅、副嶋の日常を垣間見ているような錯覚を覚えます。起承転結がしっかりしているというよりは、ずっと同じテンションで続いていくような印象を受けます。

普通、東北大震災を取り上げるのであれば、必然的に悲劇的な調子となり、良くも悪くも「盛り上がってしまう」ものだと思います。そのような印象は全く与えず、とにかく淡々とストーリーが進んでいきます。

謎解きや起承転結、伏線回収を求める人にはおそらく不向きでしょう。常に淡々と語られる物語は、不思議な余韻を読む人の中に残していきます。秋の夜長に、お酒と一緒に読んでみると良いかもしれませんね。

 

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