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Outward Matrix

戦略コンサルタントのブログ。コンサルティング業務、英語、戦略策定、採用、育成等について書いています。

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芥川賞「しんせかい」の感想とあらすじ。とても不思議な小説だった。

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こんにちは、Shin(@Speedque01)です。2016年下期の芥川賞は、山下澄人氏の「しんせかい」でした。

こちらです。

アマゾンでの紹介文はこちら。

19歳の山下スミトは演劇塾で学ぶため、船に乗って北を目指す。辿り着いたその先は【谷】と呼ばれ、俳優や脚本家を目指す若者たちが自給自足の共同生活を営んでいた。苛酷な肉体労働、【先生】との軋轢、そして地元の女性と同期との間で揺れ動く思い。気鋭作家が自らの原点と初めて向き合い、記憶の痛みに貫かれながら綴った渾身作!

著者の山下澄人氏は、もともとは小説家ではありません。本業は劇作家・演出家・俳優であり、北海道で「FICTION」という劇団を主宰されている方です。

www.yomiuri.co.jp

山下さんは、どんな経歴の持ち主なのか。最近の芥川賞は、人気お笑い芸人の又吉直樹さん(第153回、2015年上半期)、アニメ声優の経験もある劇作家・演出家の本谷有希子さん(第154回、同下半期)、自著の主人公と同様に現役のコンビニ店員の村田沙耶香さん(第155回、16年上半期)ら異色のバックグラウンドを持つ受賞者が続いた。今回、賞に輝いた山下さんは本谷さんと同じ演劇人で、北海道を中心に活動する劇団「FICTION」を主宰して劇作家・演出家・俳優を兼ねる。

演劇の世界だけにとどまらず、編集者のすすめで11年から小説の創作に注力する。翌12年には初めての小説「緑のさる」を刊行し、芥川賞と同格の賞とされる野間文芸新人賞を受賞した。劇作家・演出家として約30年にわたる創作活動を続けたキャリアがあったからこそ、小説執筆という新たな挑戦が大きく実を結び、年下の4候補を押しのけて今回、「遅咲きの芥川賞」に輝いたと言えるだろう。

小説家ではないからこそなのか、「しんせかい」の文体は非常に独特です。本を読んでいるというよりも、まさに劇をその場で見ているような、そんな不思議なリズム感があります。

また、話自体もいわゆる「起承転結」があるような小説とは一線を画します。小説の王道を行きつつ、ぶち抜けたクオリティで直木賞をさらった「蜜蜂と遠雷」とは対照的ですね。

★参考記事

では、あらすじを見ていきましょう。

「しんせかい」のあらすじ

主人公かつ語り手は「山下スミト」。彼は、「ブルース・リーか高倉健になりたい」と夢見る若者だ。「ブルース・リーや高倉健みたいになりたい」ではなく、「ブルース・リーか高倉健になりたい」というのが、スミトの特異性を物語る。

スミトは高校を卒業した後1年間ほどアルバイトをしていたが、偶然届けられた新聞に書いてある「二期生募集」というタイトルの記事を発見する。この記事により、俳優と脚本家を育てる養成所があることを知ったスミトは、応募してこの養成所に行くことを決意する。

そのときの本文が下記です。

その新聞は家に間違えて配達されたものだった。間違えて配達された新聞にその記事はあった。

それは俳優と脚本家、脚本家というものが何なのかよくわからなかったので辞書で調べた、を目指すものを育てる知らない名前の人の主宰する場で、馬の世話をするというのと、生まれて育った土地から遠く離れたとこにあるというのと、入学金や授業料が一切かからないというのにひかれて応募して試験を受けたら受かった。

普段きれいに整った文章を読んでいる人から見たら、「しんせかい」の文体には頭がくらくらするでしょう。しかしながら、その中に謎の魅力があり、どんどん読み進めてしまいます。

あらすじに戻ります。

その養成所は【谷】と呼ばれていて、そこでスミトは同期である二期生や先輩である一期生、先輩や【先生】と時間をともにしていく。

そして、一年後、一期生は卒業していく。そして、物語は唐突に終わる。

「しんせかい」の主人公や登場人物たち

いわゆる面白い小説に欠かせないのは、魅力的な主人公やサブキャラクターたちです。しかし、この「しんせかい」でそのような人物がいるかと問われると・・・うーん、どうでしょう。

おそらく著者本人がモデルである「スミト」も、それを取り巻く人たちも、良くあるエンタメ小説に出てくるようなわかりやすい魅力を備えているわけではありません。何を考えているのかイマイチ読めず、行動に一貫性がありそうでなく、そういう意味ではリアルな人間を描いている、そういう印象を受けます。

「スミト」は、明らかにコミュニケーションをとるのが下手なタイプです。強く自己主張をするわけでもなく、「面倒だな」と思いながらも【谷】での仕事をしつつ、演劇に励む青年です。

そんなスミトが圧倒的な成長を遂げてすばらしい俳優になる・・・かというと、そういうわけでもありません。【谷】での1年を通し、スミトがどう変わったのか、スミトがどのような活躍をしていくのか、そもそも活躍をするのか、それは最後になってもわからないのです。

不思議な小説です。盛り上がりがあるわけでもなく、爽快な読後感があるわけでもなく、絶望に叩き落されることもない。かといって、読んだことが無駄だとも思わない。

とても不思議な読書体験だったといえるでしょう。

「しんせかい」の魅力

個人的にいつも読むのはSFやミステリが多く、「しんせかい」のような作品を読むことはあまりありませんでした。だからか、最初は非常に戸惑いました。「なんだこれは、小説なのか?」と、そんな感想を抱きました。

文体は、先ほど引用したように一般的なものとは似ても似つかないですし、殺人事件もロボットも名探偵も出てきません。恋愛はちょこっと出てきますが、なんというかとてもリアルでざらついたものです。

小説としての面白さを追求している直木賞候補作と比べ、純文学的な香りを醸し出す「しんせかい」。はまる人にはたまらない小説だと思います。

ただ、個人的にはやはりアップダウンがあったり、「そうきたか!」という謎解きがあるSFやミステリのほうが好みかな。

とはいえ、とても新鮮な読書体験であることに疑いはありません。ぜひ、みなさんの感想も聞きたい作品です。

芥川賞受賞作とはどのようなものか、気になる方はぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。

 

★次はこの記事をどうぞ